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の課題として、噴出一次成分が微生物バイオマスに変換される機構とその規模を見積もることが重要になっています。また、熱水域では微生物が有機物生産者としてのみならず、粒子状物質の生成にも大きな役割を果たしていることが示唆されています。
このように、地球深部から供給される生物の利用可能な化学エネルギー量をバイオマス量として把握することは、その後の生物生産過程や物質代謝過程を考えるうえで重要であるばかりでなく、その新しい生物学的機能の有効利用へ道を開く可能性が期待できます。海嶺研究はこのように多岐に亘った自然現象を統一的に捉え、さらに長時間に亘る観測によって1つのモデルの構築へとつなげます。海嶺を介したエネルギーや物質の流れの研究が海嶺研究のもっとも重要なテーマなのです。
(2)東太平洋海膨研究の目的
世界最速拡大軸の研究を行うために以下のような目標が設定されました。
1)熱水、プルーム水、熱水性沈殿物の化学組成や生物学的特徴の解析を通じて、熱水活動により地球表層にもたらされる熱・物質フラックス(流量)の全体量の測定とその振る舞いの解明。熱水活動の海水化学組成への影響の見積もり。分析項目は以下のとおりです(ヘリウム同位体比、メタン、二酸化炭素、主要成分、微量金属ほか、バクテリア濃度、有機物、DNA、アミノ酸、放射性核種)。
2)「よこすか」マルチナロービームによる海嶺軸付近の詳細な地形図を作成し、前年メルビル号で行われたシービーム2000による地形図とを比較し地形変化を解析する。
3)潜水調査船による海底の目視観察およびビデオ/カメラによる海底地形、火山地形、熱水地域のマッピング。
4)自然地震の観測、エアガンによる人工地震調査による海嶺の地下構造の解明。
5)岩石および鉱石の生成年代の測定、および組成と成因の推定。
6)長期および短期地殻熱流量の観測。
7)微生物バイオマス・フラックスの測定。
これらの項目は独立した1つ1つの研究テーマになるのですが、これらの観測や観察を有機的に結び付けた研究が望まれます。
(3)新しい海洋調査機器の開発
海嶺の調査研究のためには、今までにない全く新しい海洋調査機器の開発が必要となります。それらの機器の主なものを表−1に示しました。その内、今回の研究航海で用いられたもののいくつかについて以下に簡単な解説をします。
物理・化学センサー:熱水の温度を測る温度計については既に実用化されており、長期観測も可能です。その他、水素イオン濃度(pH)、総炭酸ガス、酸素、酸化還元

表−1 この計画で開発されたさまざまな観測機器

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